ポルトヴェーネレ 水彩 37.0×57.0cm
まなざしの尽くせぬ悦楽(文=美術評論家・佃 堅輔)
本作で描かれるポルトヴェーネレは、チンクエ・テッレと同様に景勝地として知られる。海から岸辺へのまなざしである。一点は水彩画で、岸辺の建造物と海上に浮かぶ小船を描くが、もう一点の油彩画は視線の角度を変えている。正面の建造物の区切られ、細長くつながる壁のクロムイエロー系や、ブルーコンポ―ゼの色彩の階調の中で、それぞれの出窓の形がピアノの鍵盤を思わせる楽しさ。建造物の上方の教会と山頂の古城。澄み切った青空が海面に濃く映る。画家は透明水彩から解放されたかのように、油彩の喜びに満ちている。
ポルトヴェーネレとは?
「ポルトヴェーネレ」は断崖と集落が一体化し、かつて州都であったジェノヴァの出城として築かれた歴史を持つ。港に面してカラフルな建物が続き、裏には細い小道が入り組む絵のような美しい街。岬の突端に建つサン・ピエトロ教会付近は、景観の美しさで多くの詩人に愛されたことから「詩人達の入江」と呼ばれている。