北イタリア ヴェネツィア 2002年 油彩 162.0×130.3cm
第41回大調和展 会員佳作賞、月影学園幼稚園蔵
イタリア風景、その「ときめき」の感覚(文=美術評論家・佃 堅輔)
垣内宣子の描くイタリア風景の印象は、あくまで明るく、透明感があって快い。それは一人のエトランゼのまなざしであり、何よりも喜びに満ちあふれているように感じられるまなざしである。ヴェネツィアは、これまで実に多くの画家や文学者たちを魅了し、制作へと駆り立ててきた。例えばノーベル文学賞も受賞したドイツの文学者トーマス・マン(1875~1955)の小説『ヴェニスに死す』(1912)のような作品の持つ深い憂愁は、この都の優美な雰囲気によってこそ醸成され得たであろう。画家も、かねてから水の都・ヴェネツィアに憧れていたが、2001年、その念願がかなって初めて当地を訪れた。絵になる場所を見つけ、その「ときめき」を描いたヴェネツィア連作のうち、まず最初に見るのは《北イタリア ヴェネツィア》。油彩画の本作は2002年の第41回大調和展で発表され、会員佳作賞を受賞。水に浮かぶゴンドラに視覚のポイントを置きながら、運河と橋の向こうの建造物を捉え、油彩画としての構成の確かさを感じさせる。スケッチのほうは2006年にヴェネツィアを再び訪れた際、同じ場所を描いたもの。画家の感情を乗せて、軽やかな線と淡彩が快いリズムを生み出している。スケッチ作品は、現場で制作されただけに、油彩作品と比較するとき、画家のみずみずしい感覚がよりストレートに伝わり、その感覚が油彩へと表現化されてゆくプロセスが推測されて興味深い。魅力あるイタリア風景のシリーズに私は大いに関心をそそられた。
ヴェネツィアとは?
100を超える島々が点在し、その間を150の運河が巡り、400もの橋が街を結ぶ「水の都」ヴェネツィア。約3800mにも及ぶカナル・グランデ大運河はヴェネツィアの象徴ともいえる運河。イタリア本土と島をつなぐ橋が架けられたが、交通手段は船が中心で、ゴンドラはヴェネツィアを象徴する乗り物として、観光客を中心に親しまれている。「アドリア海の女王」や「アドリア海の真珠」と称され、「ヴェネツィアとその潟」の名で世界遺産に登録されている。