初夏のプラハ 2015年 油彩 162.0×130.3cm(F100) 川崎市立井田病院 蔵
歴史的時間を超越した街並みを俯瞰的視座で描く(文=美術評論家・佃 堅輔)
東ヨーロッパが崩壊した当時、私はウィーンに滞在していた。崩壊直後のベルリンを訪れ、その足でプラハを訪れた。古都プラハは歴史の傷跡を痛々しく残し、言葉を喪失したかのように静寂に包まれていた。深い朝霧に閉ざされたカール橋に立ち尽くしながら、私はふと目頭が熱くなるのを覚えた。エトランゼの感傷だったのか。私がささやかな自己体験をあえて記したのは、画家のプラハの絵が、さまざまなことを思い起こさせたからだ。私同様、エトランゼとしてプラハの街に立った画家は、歴史的時間を超えゆく美しい初夏のプラハを俯瞰的に捉えて描いた。左手に白い教会があり、明るいブルーの尖塔が空を目指し、空の色とにじむように溶け合う。右手には、積木細工を思わせるような赤い屋根が無数に連なり、はるかかなたへと延びてゆく。また、聖人たちの像、走る路面電車、多数の長方形の窓なども画面に造形的な面白さを加えている。画家の視線の確かさと、風景美への感情移入が、パースペクティブな構成と豊かな情趣を併せ持つその作品群を生み出すのである。
プラハとは?
チェコの首都プラハは、尖塔が数多く残る街。中でもプラハ城や天文時計塔をはじめ世界遺産に登録されている旧市街地と、モーツァルトが演奏したパイプオルガンが残る聖ニコラス教会のあるマラーストラナ地区を結ぶカレル橋の橋塔からは、プラハの古い街並みや路面電車の様子が一望できる。旧市街地の入り口にはアールヌ―ボ―建築のスメタナホールがあり、毎年「プラハの春音楽祭」が開催されている。