モン・サン=ミシェル 水彩 52.0×38.0cm 川口順子氏(元外務大臣・元環境大臣)蔵
時代を越えて威厳を保つ修道院(文=美術評論家・佃 堅輔)
フランス西海岸、サン・マロ湾上に浮かぶ小島であり、そびえる修道院を持つ《モン・サン=ミシェル》はカトリック巡礼地の一つである。1877年に対岸との間に地続きの道路が造られ、潮の干満に関係無く島へと渡れるようになったが、潮流がせき止められたことにより島の周囲の陸地化が進行したため、2009年に橋は取り壊される。2014年には新たな橋が完成したが、海に浮かぶ修道院としての幻想的な美しさは損なわれることはなかった。画家は、思い切って視点を変え、近代建築物と対比的に修道院を眺望する。ゴシック様式、ロマネスク様式、ノルマン様式など混在するこの修道院の姿は、時代を超える美しさと威厳を保っている。
マンシュとは?
ノルマンディー地方のマンシュにあるモン・サン=ミシェルは、エッフェル塔をはじめ、凱旋門やルーヴル美術館、ヴェルサイユ宮殿と並ぶ、世界的に有名な観光地。その起源は708年、司教が夢で大天使ミカエルから「この岩山に聖堂を建てよ」とお告げを受け、礼拝堂が建てられた。その後ゴシック様式やロマネスク様式、ルネサンス様式などさまざまな様式を組み合わせながら増改築が繰り返され、現在のモン・サン=ミシェル(「聖ミカエルの山」という意味)になったといわれている。海に囲まれた立地から、百年戦争では要塞として、フランス革命以降は監獄として使用され、一時荒廃したものの、ナポレオン3世の勅命で美しい姿を取り戻した。満潮時には海に浮かんだように見える。今では「モンーサンーミシェルとその湾」として世界遺産に登録されている。