リオマッジョーレ(チンクエ・テッレ) 水彩 37.0×57.0cm
まなざしの尽くせぬ悦楽(文=美術評論家・佃 堅輔)
青い海に迫るチンクエ・テッレの村々は、11世紀に要塞都市として建設された。以後、千年にわたって、隣の村との往来は船のみだった。16世紀の古文書『ジェノヴァ年代記』(1537)には、こう記されている。「チンクエ・テッレは急斜面で不毛の土地ながら、人々が知恵を絞ってブドウを栽培し、ワインを作っている。多くの貴族、王子、王たちがそのワインをテーブルに置くことを大きな誇りにしている」。本作で描かれているリオマッジョーレやマナローナを見ると、急斜面の硬い岩盤を砕き、石垣を築き、家を建造した当時の人々の苦闘がしのばれる。砕かれた岩盤の跡と建造物による風景の調和。岩盤を描く画家の固い線と、その量感的表現が注目されよう。マナローナとリオマッジョーレの間には、それをつなぐ約1km強の遊歩道があるが、画家はこの遊歩道から描いたものと思われる。
リオマッジョーレとは?
20kmほどの険しい海岸線に点在する5つの村を指すチンクエ・テッレの中で一番大きな街「リオマッジョーレ」は、絶壁にカラフルな家が立ち並ぶ小さな港町。孤立性の高い地形から要塞都市として利用されていたが、現在は観光地として人気を博している。