城壁の街 オビドス 2006年 油彩 162.0×130.3cm(F100)
第45回大調和展 武者小路賞、川崎市立今井小学校蔵
移りゆく光が映す情景に、ポルトガルの歴史を重ねて描く(文=美術評論家・佃 堅輔)
本作は城壁に至る街を俯瞰する。ことさら透明な光が赤褐色の屋根の家々とその白壁を包み、石畳の道を白くまぶしいばかりに輝かせる。前景の2本のパラソルの鮮やかなカドミウムイエローは、道に投げかけられた淡いブルーの影とコントラストを成しながら、作品の視覚的印象を強め、また奥行空間へのアクセントを添える。同じモティーフを取り扱った水彩画では、城壁に向かって歩いてゆく人たちの後ろ姿が描き込まれている。「谷間の真珠」と称されるこの風景の明るさの中に、画家はポルトガルならではのまばゆい光と悠久の時の流れを感じ取り、繊細かつ大胆に表現しているのである。
オビドスとは?
オビドスは「谷間の真珠」と称される。古い街並みを残す城壁に囲まれた小さな街は、新婚旅行で訪れた第6代ポルトガル王のディニス1世が、王妃イサベルに贈ったことで知られている。以来、オビドスは代々皇后の直轄地となり「王妃の村」とされた。サクランボを漬け込んだ果実酒ジンジーニャが名物で、チョコレートカップに入れて飲むのが主流。