ブラチスラヴァ城を望む(スロヴァキア) 水彩 52.0×38.0cm
古城へと向かう(文=美術評論家・佃 堅輔)
ブラチスラヴァ城は、かつてマリア・テレジアの居ともなった古城であり、城内からはドナウ川や付近の林野、市街が一望できる。城の四隅に配された塔がテーブルの脚に見えるため、「ひっくり返したテーブル」と呼ばれている。作品は、この城をはるかに眺望しながら歩む画家の姿をほうふつとさせる。狭い街路に両側から迫る赤い屋根の家々だが、その中に群青色の瓦の屋根が混ざり、この街の古い歴史を感じさせる。屋根の色の変化に、画家は東ヨーロッパの雰囲気を感じ取っている。
ブラチスラヴァとは?
スロヴァキアの首都・ブラチスラヴァ。ドナウ川河畔に発展した街の近郊には農地が多く、ブドウ畑が広がるワインの産地としても知られている。1563~1830年まで女帝マリア・テレジアを含む歴代のハンガリー王の戴冠式が行われた聖マルチン大聖堂や、旧市街の入り口であったミハエル門など歴史的な建物が残っている。丘の上にそびえ立つブラチスラヴァ城は、千年を超える歴史の中で改築と再建を繰り返し、17世紀に4つの塔が建てられ現在の姿となった。9世紀終わりごろに要塞としての役割を果たした後、改築が繰り返されてきた。18世紀にマリア・テレジアの居城となり黄金時代を迎えたが、19世紀に大火のため城は消失してしまい、20世紀後半に現在の姿に再建された。現在は歴史博物館、楽器・音楽博物館として公開されている。このようにスロヴァキアは中世の街、城、教会など文化遺産の宝庫であり、多くの国の影響を受けながらも独自の文化を守っている。