コンコルディア神殿とオリーブの巨木(シチリア島) 油彩 72.7×91.0cm
風景の色、まなざしを染める(文=美術評論家・佃 堅輔)
本作は、ギリシャ様式の神殿と巨木、そして青空が、ギリシャ文明の影響を残すイタリア南部、シチリア島の歴史を無言で語りかける。
シチリア島とは?
地中海最大の島・シチリア島は、古代ギリシャ、カルタゴ、ローマ、アラブ、ノルマンなど、島を征服した各時代の文化が残る遺跡と歴史の宝庫。活火山であるエトナ山とイオニア海を望むタオルミーナは、映画『グラン・ブルー』の舞台となったシチリアの中でも特に有名な観光地である。夏は高級リゾート地として世界中から多くの観光客が訪れるが、現在のように観光地として栄え始めたのは、18世紀後半のことである。F.ニーチェ、O.ワイルド、D.H.ロレンス、T.カポーティといった著名な哲学者や文学者がこの地を訪れ、その美しさを伝え始めたのがそのきっかけといわれる。タオルミーナを象徴する古代劇場「ギリシャ劇場」は、紀元前3世紀にギリシャ人によって建設されたが、古代ローマ時代を経て、ローマ人によって闘技場に改築された。岩場の斜面を削り取ったすり鉢状のステージが特徴で、観客席からは劇場全体が見渡せる。客席最上段へ登ると、南にイオニア海やエトナ山、北にメッシーナ海峡やイタリア本土が一望でき、その絶景は文豪ゲーテも「この劇場から見るパノラマは世界一の美しさだ」と賞賛したほどである。「タオルミーナアルテ」は、シチリア島で最も重要なカルチャーイベントの一つであり、ギリシャ劇場をはじめとするタオルミーナ各地の会場でオペラやコンサートなど、数々のイベントが毎年春から夏にかけて開催される。アグリジェントは、ギリシャに来たのかと錯覚してしまうほど古代ギリシャの遺跡を現代にまで残す町。“神殿の谷”と呼ばれる地域は世界遺産に登録されていて、見応えのあるギリシャ神殿群が集まっている。シラクーサにも世界遺産に指定された歴史的な遺跡など、多くの観光スポットがある。太宰治の小説「走れメロス」の舞台としても有名。