ボックの砲台よりペトリュス渓谷を望む(ルクセンブルク) 水彩 38.0×52.0cm
要塞の歴史を思う(文=美術評論家・佃 堅輔)
ルクセンブルクの名は「小さな城」を意味するルシリンブルクに由来する。アルデンヌのジークフリートは、963年にサンマクシマン修道院と条約を交わし、この地を手に入れる。彼は、軍事目的としても格好の場所である谷を見下ろす断崖に居城を構え、要塞を築く。その後ブルゴーニュ公(15世紀)、スペイン・ハプスブルク家(16世紀中頃)、フランス・ナポレオン軍(17世紀後半)などの勢力によって統治されてゆく。画家が描くボックの砲台から眺望した渓谷の流れに、移りゆく時代を追体験する。
ルクセンブルクとは?
ルクセンブルクは、ボックフェルゼンと呼ばれる岩山に建設された小さな城(ルシリンブルク)を中心に発展した要塞都市(現在でも「ボックの砲台」として名残がある)。フランス革命期にはフランスの支配を受け、その後1815年にウィーン会議の結果、ドイツ連邦に加盟しながらもオランダ国王を大公とするルクセンブルク大公国となった。このように中世から中立国になった1867年まで、ブルゴーニュ公国、ハプスブルク家、スペイン、フランスなどによる支配が続き、歴史的にも文化的にも影響を受けてきた。「ルクセンブルク市:その古い街並みと要塞群」として世界遺産に登録されている旧市街には、スペインとイスラムの建築様式が融合した大公宮殿や、ゴシックとルネサンス様式を組み合わせたノートルダム大聖堂など、この国の波瀾の歴史を物語る建築物が数多く存在する。現在でも人口の45%は外国人が占め、さまざまな文化的背景を持つ芸術家が数多く住んでいることから、ヨーロッパにおける文化的首都として指定されている。